媛媛講故事―17

                         
      白蛇伝 Ⅲ             何媛媛

 


 しばらくして白娘子が目を覚まし、許仙が気を失って倒れている姿を目にして、驚くとともに悔しくてたまりません。が、先ずは許仙の命をなんとしてでも救わなければと南極仙翁の瑞草園を思い出し、急いで南極仙翁の住む蒿山に行きました。蒿山には「九死還魂仙草」(霊芝草)という薬草が生えていて、それを煎じて飲ませると死んだ人でも生き返えらせることができるのです。

 しかし、鶴童と鹿童という番人がその仙草を摘み取られないようしっかりと見張っています。白娘子がまさに仙草を摘み取ろうとした時、彼らに発見されてしまいました。白娘子は二人と激しい格闘の末、どうにか仙草を持ち帰ってきました。

 白娘子が、やっとの思いで摘んできた霊芝草を煎じて許仙に飲ませると、許仙はその仙草の薬効で一命を取り留めることができました。けれどもそれでは法海坊主の気持ちがおさまりません。白娘子が外出した際、許仙を騙して連れ出し、白娘子と許仙の縁を切り裂きたいと

 「早く妻を殺しなさい。私の云う通りにしないと、あなたの命はないぞ!」

 と脅しました。しかし、白娘子の必死の看護で蘇った許仙はもう法海の脅しには屈しませんでした。

 「妻はたとえ白蛇であろうとも私の妻だ。彼女が私の命を救わなかったら、私は今ここにいるものか!?しかも彼女のお腹には私達の子がいるのだ。私はもう決して彼女を裏切るようなことをしないと心を決めたのだ」

 法海は許仙を金山寺へ無理やり連れて行くと禅房に幽閉してしまいました。

 白娘子と小青はあちらこちらと許仙を探しましたがどうしても見つけらずにいましたが、やがて法海に誘拐されたと知りました。二人は金山寺に赴くと許仙を返してくれるように法海に頼みました。しかし法海はその頼みに全く耳を貸さず、如来佛から盗んできた禅杖を使い白娘子に戦いを挑むのでした。白娘子の、身重の身では到底勝てる筈がありません。

 白娘子と小青は水の妖怪たちに頼み込み、法海の住む金山寺を水浸しにしようとしました。けれども水位が上がれば、寺の位置も高くなり、なかなか勝負がつきません。白娘子と小青は最後の技とばかりに天にも届く水嵩にしました。けれども寺がまさに水没するかとみると、法海は如来佛から盗んできた袈裟を取り寺の玄関で一振りしました。袈裟は眩いばかりの金の光を四方に放ち、見れば高くて長い堤防が現れたではありませんか。水は長堤の向こうに押しやられ、今にも水に呑み込まれるかとみえた寺は守られてしまいました。

 許仙を救い出す他の方法がないかと白娘子と小青が考えを巡らせているうちに、白娘子が産気づき二人は急いで西湖の断橋へ帰りました。そして、間もなく男の子が生まれ許仕麟と名づけられました。

 幾日か過ぎ、思いもよらないことに、許仙が突然現れました。実は、許仙は法海と白娘子たちとの戦いのどさくさにまぎれて逃げ出していたのです。自分の子を初めて見た許仙は白娘子に感謝の気持ちでいっぱいでした。子ども加えて4人になった許仙と白娘子、そして小青はこれまで以上に幸せな生活を送ろうと誓い合いました。

 しかし、その生活を続けることはできませんでした。間もなく新年を迎えようというある日、新年に使うものをこまごまと取り揃えた雑貨売りが門の前にやって来ました。雑貨の中にきらきらと光る綺麗な金の冠があり許仙の目を惹きました。雑貨売りは許仙に「綺麗な冠でしょう? 奥さんにプレゼントして上げたらきっと喜ばれますよ」と言葉巧みに薦めました。「そうだ。妻はこれまでいろいろ苦労して来た。褒美に買ってあげよう」許仙は考えてそれを買いました。

 翌朝、白娘子が化粧しているところを見かけた許仙は、ビックリさせて喜ばそうとこっそりと白娘子の後ろに近づいてその金の冠を白娘子の頭にそっと被せました。ところが冠を被せた途端、白娘子はきりきりと強烈な痛みで頭を締め付けられ、冠を脱ごうとしても取れなくなりました。

 実は、雑貨売りは法海で、この冠は法海が如来佛のところから盗んできた金の鉢を冠に変えたものだったのです。この金の鉢には恐ろしい魔力があり、被せられると鉢の中に閉じ込められてしまいどうしても逃げ出せなくなるのです。許仙は驚き慌て何とか取り外そうとしている所へ法海が入って来ました。

 「わはは、今日、わしはやっと妖怪を捕えたぞ!」と言うと白娘子の頭の冠に息を吹き掛けました。冠は大きなぴかぴか光る金の鉢に変わり、白娘子はその中に閉じ込められてしまいました。許仙と小青は怒りのあまり法海に立ち向かおうという時、白娘子は金の鉢の中から言いました。

 「小青、あなたの今の力では法海に勝てません。早く逃げて、もっと修行を積んでから私を救いに来なさい。そして旦那様、お願いです。早く息子を何処かに連れていってしっかり育ててください!」

 小青は白娘子の言葉を聞くや青い煙に変わるとどこかに去って行きました。人間でしかない許仙は法海に立ち向かう術もなく、息子を抱いて白娘子に見せると、急いで立ち去るしかありませんでした。金の鉢に閉じ込められた白娘子が悲しさと悔しさに涙を流している間に、体はどんどん小さくなり、遂には白蛇の姿に戻り、そして、白娘子を閉じ込めた鉢は法海によって西湖の辺に立つ雷峰塔の下に鎮められました。

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 長い歳月が経ちました。小青は大山に閉じこもって、何十年もの修行を積み無敵の身となりました。許仕麟も許仙の元で大切に育てられ、立派な青年に成長しました。

 ある日、許仙と、許仙と白娘子の二人の息子である許仕麟の親子は小青に伴われ、白娘子が閉じ込められた雷峰塔を訪れました。そして小青は霊峰塔を燃やし白娘子を救い出し、妻と夫とその子はようやく再会を果たすことが出来ました。

 しかし、それは法海が許しません。怒った法海は小青と三日間戦い続け、とうとう如来佛の居眠りを妨げてしまいました。如来佛は目を覚ますと、如来佛の三つの宝物である「金の鉢」、「袈裟」、「禅杖」が盗まれているのに気付きました。騒がしい下界を良く見ると、なんと法海がそれを持って小青と戦っているではありませんか。 如来佛は怒って手を振ると三つの宝物が舞い戻ってきました。もともと法海は修行が十分ではなく、宝物が無ければ改めて修行に励んで力をつけた小青に勝てる筈はなく、結局西湖の底に逃げて、蟹のお腹へ隠れてしまいました。

 許仙一家は、その後幸せな生活を送り続け、息子の許仕麟は、許仙と白娘子の愛に守られ、良い教育を受けて優秀な成績で科挙に合格し、役人を務めるようになったということです。


【あとがきとして】
 中国の人々に好まれる物語では家族の愛情や絆がいかなるものにも打ち勝つということが重要な要素になっています。この物語では、最終的には白蛇の妖怪が勝つことになるのですが、それは家族愛というテーマで正当化されます。
 実は、小青は物語の始めの方で悪徳役人から金を盗み、その金を元に許仙は薬屋を開くのですが、そのことへの罪悪感はありません。中国の民衆には民から奪って金銭を溜め込んでいるような悪党から盗むことは「悪」ではないという考え方もあるのでしょうか。
 ところで端午の節句には白蛇伝の物語にありますように、中国の人々は魔よけとして雄黄酒を飲みます。この酒には微量ながら砒素を含む鉱物をかつては使ってたようですが現代の人々が飲むのは似せて作った酒のようです。 
                   


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